外国語の練習として知らない人と話すとき、多くの人が最初に添える一言があります。「間違っていたら直してください」です。礼儀正しく、前向きな姿勢の表れでもあります。ただ、この一言だけでは相手はほとんど動けません。結果として一度も直されないまま会話が終わり、あとで「練習にはなったけれど、何が直ればいいのかは分からなかった」と感じることになります。
「直してください」だけでは相手が動けない理由
頼まれた側に立ってみると事情が見えてきます。相手はまず、どこまでを間違いと見なすべきか迷います。助詞の抜けは直すべきか、意味は通じている不自然な語順は放っておくべきか、発音はどうか。基準が分からないので、全部指摘すれば会話が成り立たなくなり、何も言わなければ不親切に見える。どちらもやりたくないので、結局「今のでだいじょうぶですよ」と流すのが一番安全な選択になります。
もう一つの理由は、訂正が相手にとって気を使う行為だということです。初めて話す人の言葉遣いに口を出すのは、ふつう遠慮されます。だからこそ、頼む側が具体的に許可の範囲を示す必要があります。
何をどこまで直してほしいのか、先に決めておく
会話の初めに、一つか二つに絞って伝えるのが現実的です。数を絞ると相手も覚えていられます。
- 「聞き取れなかったところがあったら、そのとき教えてください」
- 「意味は通じても不自然な言い方だったら、自然な言い方を一つ教えてほしいです」
- 「助詞だけ気をつけて聞いてもらえますか」
- 「発音で分かりにくい単語があれば、その単語だけ言い直してください」
逆に「文法も発音も語彙も全部」と頼むと、相手は優先順位を決められません。今日の練習で一番伸ばしたいところを自分で選んでおくと、頼み方も自然に短くなります。
会話を止めずに訂正をやりとりする
訂正が入るたびに話が中断すると、練習というより口頭試験になってしまいます。流れを保つには、受け渡しの形をあらかじめ決めておくと楽です。
- 相手が正しい形を一度言う。説明は求めない。
- こちらはその形をそのまま一度繰り返す。
- そこで元の話題に戻る。理由が気になれば、話が一段落したあとで聞く。
文字で話しているなら、直した形だけを短く書いてもらう方法も使えます。長い解説より、正しい一文が目に見えることのほうが記憶に残ります。また、直された直後に謝る癖がある人は、代わりに「ありがとう、もう一回言ってみます」と返してみてください。会話の空気が重くなりません。
自分が訂正する側になったとき
相手が自分の母語を練習している場合、立場は入れ替わります。このとき役に立つのは、相手が頼んだ範囲だけを扱うという姿勢です。頼まれていない点まで指摘すると、相手は話すこと自体をためらい始めます。
言い方としては、間違いを名指しせずに正しい形を自然に混ぜ返すやり方が穏やかです。相手が不自然な言い方をしたら、返事の中で自然な言い方を使って同じ内容に触れる。気づく人は気づき、気づかなくても会話は前に進みます。はっきり伝えたいときは「今のところ、こう言うともっと自然です」と一文だけ添えれば十分です。相手の間違いを面白がったり、まとめて講評したりする必要はありません。練習の相手は、採点者ではなく話し相手です。