会話

知らない人との会話を、きちんと終わらせる

ネットで知らない人と話すとき、会話の大半は「終わる」のではなく「消える」かたちで幕を閉じます。相手の返信が来なくなる、接続が切れる、画面が次の相手に切り替わる。理由は分かりません。飽きたのか、用事ができたのか、こちらの何かが気に障ったのか。何も分からないまま、さっきまであった会話だけが手元に残ります。

消えることが当たり前になった場所で

突然いなくなる行為が普通になった背景には、仕組み上の事情があります。相手を切り替えるのに一秒もかからず、次の相手はすぐ見つかる。断る言葉を探すより、ボタンを押したほうが早い。しかも匿名なので、気まずさを後に引きずる必要もありません。

ただ、この「早さ」には代償があります。いつ消えられても不思議ではない場所では、人はあまり深く話そうとしません。丁寧に前置きをして本題に入ろうとしたら、その途中で相手がいなくなる。そういう経験が重なると、多くの人は最初から浅いところで止めるようになります。会話が続かないのは話題が足りないからではなく、続く見込みが感じられないからということも、案外あるのです。

終わりが見えると、会話は安心して深くなる

逆のことも起こります。「この会話には終わりの挨拶がある」と分かっているだけで、その場の温度は変わります。相手が礼儀正しく別れる人だと感じれば、話の途中で放り出される心配をしなくていい。だから少し踏み込んだ話もできます。

終わりを示す言葉には、もう一つの役目があります。抜け道を用意することです。「あと十分くらいで出かけます」と先に伝えておけば、相手は十分後に去られても傷つきません。自分も、途中で切り上げたいときに嘘を探さなくてすみます。終わりの予告は冷たい行為ではなく、むしろ両方の肩の荷を下ろす配慮です。

終え方は、短くて構わない

長い挨拶は必要ありません。むしろ長いほうが不自然になります。実際に使いやすいのは、次のような短い形です。

  • 予告する――「そろそろ出ます」「あと少しだけ話せます」。切る五分前でも十分です。
  • 感謝を一つだけ添える――「話せてよかったです」「本の話、参考になりました」。具体的な一語が入ると、社交辞令に聞こえません。
  • 相手に返す必要をなくす――「お返事はいりません、それではまた」。返信の義務を外しておくと、相手も楽に終われます。

話がうまく合わなかった場合も、同じで構いません。「今日は私の調子がよくないので、ここで失礼します」。理由を作り込む必要はなく、去ることを伝えるだけで十分に礼を尽くしています。相手を評価する言葉を添えないほうが、かえって親切です。

それでも黙って去られたとき

こちらが丁寧に終えても、相手が同じようにしてくれるとは限りません。会話が半分で切れたまま終わることは、これからも起きます。そのとき、自分の何が悪かったのかを長く探すのは、あまり実りのない作業です。相手の側の事情は、こちらからはどうしても見えません。

見えるのは、自分がどう振る舞ったかだけです。話を聞こうとしたか、終わるときに一言置いたか。そこだけを持ち帰れば足ります。そして、きちんと終えた会話は、内容を忘れたあとでも「悪くない時間だった」という感覚だけが残ります。名前も顔も知らない相手との短い会話に残せるものは、案外それくらいしかなく、それは決して小さいものではありません。

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