知らない人との会話で、相手が何かを打ち明けてくれたとき、こちらに似た経験があると、つい自分の話を始めてしまうことがあります。その一手が会話を近づけることもあれば、静かに遠ざけてしまうこともあります。違いはどこにあるのでしょうか。
共感のつもりが、話の持ち主が入れ替わる
相手が「最近、引っ越しで疲れていて」と言ったとします。こちらにも覚えがあれば、「私も去年引っ越したんですが、荷造りが本当に大変で」と返したくなる。悪気はありません。むしろ「あなたの状況は分かります」という合図のつもりです。
ただ、この返し方には副作用があります。話題の中心が、相手の引っ越しからこちらの引っ越しへ移ってしまう。相手はもう少し続けるつもりだったのに、続きを置く場所がなくなるのです。文字での会話では特に起きやすく、相手が打ち込んでいる最中にこちらの長い体験談が届き、そのまま流れが変わってしまうこともあります。
出す前に確かめたい三つのこと
自分の話を挟みたくなったら、一呼吸おいて次のことを考えてみてください。
- 相手の話は終わっているか。まだ途中に聞こえるなら、「それで、どうなったんですか」と先を促すほうが自然です。
- 自分の話は、相手の話を照らすか。理解を示すために添えるのか、それとも単に自分が話したいだけなのか。後者なら、順番を待っても困りません。
- 「もっと大変だった」方向に行っていないか。苦労の比べ合いになると、相手は言いづらくなります。
出すなら短く、そして戻す
自分の体験を出すこと自体は、悪いことではありません。一方的に聞かれ続けるより、お互いに話したほうが会話は落ち着きます。大事なのは長さと、その後です。
目安は二、三文。「私も去年引っ越しました。荷造りだけで一週間かかりました」くらいで止めて、あとは相手に戻します。戻し方は、質問でなくてもかまいません。「そちらはまだ荷物が残っている感じですか」でもいいし、「その疲れ方、たぶん想像がつきます」と言って黙るだけでも、相手は続きを話しやすくなります。自分の話が長くなりそうだと感じたら、そこはいったん置いて、相手が一区切りついてから改めて出せばいいのです。
相手が自分の話ばかりするとき
逆の立場になることもあります。何を言っても相手の体験談が返ってきて、自分の話がどこかへ行ってしまう。そんなときは、腹を立てる前に、それが緊張の裏返しである可能性も考えてみてください。沈黙が怖くて、手持ちの話で埋めている人は珍しくありません。
それでも自分の話に戻したいなら、遠回しにせず「さっきの続きなんですが」と言って構いません。相手を責める言い方でなければ、たいていは受け止めてもらえます。何度試しても一方通行のままなら、無理に釣り合わせようとせず、礼を言って会話を終えるのも、じゅうぶん誠実な選択です。