知らない人と話し始めるとき、多くの人がまず頼るのは質問です。「どこに住んでいるんですか」「何をしている人ですか」「今日は何をしていましたか」。質問は会話の糸口としてよくできた道具で、これがなければ最初の一分はかなり苦しくなります。ただ、質問だけで組み立てた会話は、ある時点から急に息苦しくなります。相手はずっと答える側に固定され、こちらはずっと次の質問を探す側に回ります。気づくと、会話というより面接に近い形になっています。
質問が続くと、相手は「答える人」になる
質問には、答える義務のようなものが自然についてきます。一つ目、二つ目まではいいのですが、三つ、四つと続くと、相手は自分が試されているような感覚になります。しかも質問する側は意外と楽です。自分のことを何も出さずに会話を進められるからです。この非対称が積み上がると、相手は「この人は自分に興味があるのか、それとも時間を埋めたいだけなのか」が判断できなくなります。判断できない相手に、人は深い話をしません。結果として、答えは短くなり、会話は表面をなぞったまま終わります。
自分の話を、質問の前に短く置く
やり方はとても簡単です。質問の前に、自分の答えを一言だけ添えます。「休みの日は何をしていますか」ではなく、「休みの日は近所を歩いているだけなんですが、そちらはどうですか」。情報量はほんの一行です。それでも相手の負担はかなり変わります。どの方向に、どのくらいの長さで答えればいいのかが見えるからです。質問は方向のない問いかけですが、自分の答えを添えると見本になります。
注意したいのは、長く語らないことです。前置きが三行を超えると、今度は相手が聞き役に固定されます。目安は、自分の話が相手の答えより短いくらい。会話の主役を渡すための一行だと考えると、ちょうどよい長さに収まります。
深さは、少しずつ揃えていく
自分の話を出すといっても、最初から重い話をする必要はありません。人は相手が開いた分だけ開くので、順番が大事になります。まず日常の小さなこと、次に考えていること、それから迷っていることや苦手なこと。一段深めてみて、相手が同じくらいの深さで返してくれば、もう一段進めます。返ってこなければ、そこで止めて元の深さに戻ります。相手が浅いところにいるのに一人で深く潜っていくと、会話ではなく告白になってしまいます。
また、自分を開くことと、自分を特定できる情報を渡すことは別のものです。住所や勤務先、通っている学校を言わなくても、考え方や好みは十分に伝わります。むしろ人柄が伝わるのは後者のほうです。カメラを使うかどうかも同じで、顔を出さなくても話の深さは作れます。
そのまま使える言い方
- 「私は朝のほうが調子がいいんですが、そちらはどうですか」
- 「最近は同じ音楽ばかり聞いていて、新しいものを探すのが下手なんです」
- 「その話、私はまったく詳しくないので、入口だけ教えてもらえますか」
- 「実は人と話し始めるのがいつも苦手で、今も少し探りながら話しています」
どれも特別な内容ではありません。共通しているのは、自分の位置を先に示していることです。相手はそれを足場にして話し出せます。質問を減らす必要はありません。質問の手前に、自分の一行を置くだけで、会話は取り調べから往復に変わります。